こわいな!恐怖の美術館「5年後のヨルのキオク」
2021.9.25ー12.5 at:熊本市現代美術館
熊本市現代美術館の企画「こわいな!恐怖の美術館」にて
「5年後のヨルのキオク」と題しての空間インスタレーション。
テーマは「熊本地震と東日本大震災」です。
5年後の「ヨルのキオク」
2016年4月、二度にわたる大地震を体験し、夜になると揺れる...という不安な気持ちから、その年は夜の絵ばかりを描いていました。わたしにとって、絵を描くことは、「自分と向き合うこと」であり「祈り」でもあります。無心になって描くことで、自分自身の無力さや、混乱した心を落ち着かせようとしていたのかもしれません。
5年経った今、改めて、あの時のことを思い出してみました。今でも強く忘れられないのは、地面がぐにゃぐにゃと動く感覚。まるで動物の背中にいるようで、地球は生き物なんだ...と体感した瞬間でした。これまでに感じたことがない恐怖を感じました。きっと多くの方がそうだったと思います。
夜に余震がやってくる気がして、日が暮れると得体の知れない不安が押し寄せていました。東日本大震災で被害に遭われた方々は、この揺れだけではなく、津波という恐怖、さらには原発事故という人災までも覆いかぶさった...。余震で目が覚め、車中泊の車の中でそんなことが頭をぐるぐる...空がうっすら明るくなりはじめた頃、ほっとして眠りについていたのを思い出します。だけど、美しい星空や月明かりが照らしてくれる優しい夜の存在も知っています。もしかしたら、そんな夜や夜空に、救われた人もいるのではないでしょうか。だから、様々な不安や恐怖を包み込んでくれる優しい夜を表現したいと思いました。
あの時、体で感じた「地球は生きている」という感覚...わたしたちはその一部でしかなく、地球が生きているからこそ、空や森や海や美しい環境の中で豊かに生きることができ、だからこそ生まれる不安や恐怖があります。その地球の営みに負荷を与え続けているわたしたちの生活が原因で起こる異常気象や感染症による恐怖もまた、地球が生きているからこそ起こっていることなんだと感じています。
そして、熊本地震以降、大きな繋がりが生まれた熊本市動植物園。
今回、当時の動物たちの様子を改めて飼育員さんたちに伺ったり、当時の手記を読み返しました。怖かったのは人間だけではなく、動物たちも怖かった...。先が見えない不安の中、動物たちのために一日でも早く日常を取り戻そうと、尽力を重ねられたスタッフの皆さんの思いを改めて感じることができました。そんな動植物園という存在に、たくさんの希望をもらい、動物たちから、たくさんの癒しと元気をもらったという方も多いのではないかと思います。そんなことも作品を通じてお伝えできたらと思います。
最後に...、当時描いた作品は、翌年(2017年)「ヨルのキオク」(長崎次郎書店)で発表する機会があり、それぞれ県内外に旅立っていましたが、今回、持ち主の方々からお預かりして展示します。久しぶりに会う12点の作品たちを目の前に、あの時の様々なキオクが蘇ります。それぞれの思いを重ねて大切に手元に置いてくださっていたみなさん、快くご協力いただき、ありがとうございました。
2021.6.25 コーダ・ヨーコ
5年後の「ヨルのキオク」
5年前の春、地面が大きく揺れた
夜になると揺れた
得体の知れない恐怖が襲った
まるで 動物の背中の上にいるようで...
ちきゅうは 生きている
だからこそ生まれる、不安や恐怖
だからこそ生まれる、美しい景色
だからこそ生まれる、豊かな実り
だからこそ生まれる、たくさんのいのち
その営みの中に、わたしたちは存在する
夜が怖かった
今でもあの恐怖が、時々顔を出す
だけど、優しい夜の存在も知っている
暗闇の中に瞬く星や、笑う月...
わたしたちは 生きている
だからこそ感じる、悲しみや苦しみ
だからこそ感じる、あたたかい感触
だからこそ感じる、幸せな記憶も、苦い記憶も
すべては尊いということ
だからこそ大切に思う
すべては繋がっているから
夜空が、恐怖を包み込んでくれますように
全てのたましいが、安らかでありますように
小さな祈りにも、光が届きますように
photo:坂本和代
↑「どうぶつたちもこわかった」
↑ 5年後の「ヨルのキオク」イメージドローイング